ベルリンの楽器博物館に展示されているストラディバリウス。1703年のもの。
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マドリードの王宮に展示されているストラディバリウス。1687年頃のもの
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ストラディバリウスは、イタリアの弦楽器制作者アントニオ・ストラディバリが製作した、世界最高峰のバイオリンの名称です。1200挺ほどが製作され、現在、世界中で約600挺が存在するとされています。300年も前に作られたのに奏でる音色は唯一無二と言われます。ラテン語の署名、”Antonius Stradivarius” が名器の証し、一つ一つに愛称が付けられ、歴代の名手によって受け継がれてきました。製作年代やタイプ、来歴などにより価格は大きく変わり、一般に数千万から数億円で取引されています。
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最高価格は、2011年6月にオークションで落札された1721年製のストラディバリウス「レディ・ブラント」の1589万4000ドル(約12億7420万円)。
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資産家や所有団体、関係団体から演奏家へ貸与されることもあります。たとえば、歴史的バイオリニストであるヤッシャ・ハイフェッツが所有していた1714年製の「ドルフィン」は、日本音楽財団によりバイオリニスト諏訪内晶子に貸与されています。

ストラディバリの楽器は、音の良さもさることながら、形状、彫刻の精度、ニスの光沢など、あらゆる視覚的特徴が完璧だと言われます。

バイオリニストの千住真理子さんによると、凡庸のバイオリンとはまったく響きが違い、いつまでも弾いていたいという気持ちにさせるそうです。
「いままで使っていた楽器とは、音の出し方、音楽の作り方、すべてを変える必要がありました。 今までのような小細工は利かずむしろ邪魔です。何もかも、ゼロに戻って1からやり直すことになりました。人生観もかわりました。」
「自分が演奏しているのにもかかわらず、楽器そのものが勝手になっているような、そんな錯覚。これは生き物じゃないかな、という風な気がしてしまうほど、何か非常に、底知れない深みを持っている楽器だと思います。」

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1716年 デュランティ
(Duranti) Vl 千住真理子 自己所有
約300年間誰にも弾かれずに眠っていました。
デュランティを最初に得たのはローマ法王クレメント14世でしたが、法王没後、フランス貴族のデュランティ家に約200年間保管され、1921年からの80年間はスイスの裕福な公爵家が所有。2002年に手放すことになり、最終的に幾つかの条件を満たした千住が演奏者として最初の所有者となりました。

2-3億円(正確な金額は非公表)で購入しているそうです。

【盗難事件】
英国で2010年に盗難に遭い、2013年7月に発見されたストラディバリウスが、競売に掛けられ、138万5000ポンド(約2億3600万円)で落札されました。窃盗犯は犯行後、現場からそれほど離れていない場所で、この楽器をわずか100ポンド(約1万7000円)で売ろうとしていました。

【寄付】
バイオリンの名器ストラディバリウスが約1600万ドル(約12億7000万円)で落札されました。この価格は、これまでのストラディバリウスの最高値の4倍に相当します。日本音楽財団は20日、東北地方を襲った地震と津波の被災者を支援するために、アンティークのバイオリン「レディー・ブラント」――伝説的な弦楽器製作者アントニオ・ストラディバリ(1644-1737)によるもので、現存する約600挺の1つをオークションで売却しました。

1721年制作のこのバイオリンは、ロンドンの楽器の競売会社タリシオが主催するインターネットオークションに出品され、匿名の入札者によって980万ポンドで落札されました。このバイオリンの名前は、英国の詩人バイロン卿の孫娘、レディー・アン・ブラントがかつて30年間所有していたことに由来します。日本音楽財団がこの楽器を購入したのは2008年ですが、その価格は明らかにされていません。同財団によると「ほぼ未使用で、現存するなかでは保存状態が最も良いストラディバリウス」だといいます。

クラッシック音楽愛好家の間では「ストラド」と呼ばれているストディバリウスは史上最高の弦楽器であり、博物館で保存すべき芸術品のように大切に扱われています。一般的に数億円の価値があるので、その奏者はイツァーク・パールマン氏のように世界的に有名な音楽家であることが多いのです。ストラディバリウスが珍重され、超高額で取引されるのには、ブランドとしての価値もさることながら、バイオリニストたちがストラドにしか出せないと断言する魅力的な音質があるからです。

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(ソイル 1714年製 「70歳」)
20世紀の神童、ユーディ・メニューインが手にしたストラディバリ70歳の傑作ソイル。

天才職人の生涯

ストラディバリ
イタリア・クレモナ、この町でストラディバリが完成させたバイオリン作りは2012年、ユネスコの世界無形文化遺産に登録されました。
音色に加え、芸術性の高さが人々を惹きつけ、世紀を超えて大切に守り継がれてきたのです。

アントニオ・ストラディバリが93歳で亡くなった後、技術が伝承される事はありませんでした…後を継いだ息子たちが相次いで亡くなり、その技は残されたものから推測するしかない謎となってしまったのです。

ストラディバリが残したバイオリンは、数多くの物語を残しています。その数奇な逸話の一つをご紹介します。

ストラディバリ亡きあと工房には1挺の美しいバイオリンが残されていました。それを遺族から買い取ったのがコジオ・デ・サラブーエ伯爵、史上最初のストラドコレクターです。

この楽器の噂を聞きつけた男がルイージ・タリシオ、バイオリンハンターです。パリシオはイタリア中の教会や城に眠っていたバイオリンを発掘、パリやロンドンで売り捌ぎ、荒稼ぎしていました。

サラブーエ伯爵の持つ、ストラドの傑作に目を付けたのです。”あれならいくら儲けられるかわからないぞ” と。

そして何度も頼みこみ高額で手に入れます。しかしタリシオは一目見るなり、魅了されてしまします。

以来、このストラドは誰の目に触れることなく彼の部屋で眠り続けます。それから30年、パリシオは生涯をストラドの収集に捧げました。最後は屋根裏部屋で愛するバイオリンに囲まれて息を引き取ったと伝えられています。

パリシオの愛したストラドはいくつかの戦禍を免れ、今はイギリスの博物館に所蔵されています。

ストラディバリウス メシア
(メシア 1716年製)

アシュモリアン博物館(イギリス・オックスフォード)に所蔵されているメシア、救世主と名付けられています。

メシアは世界で一番有名な楽器と言われています。現存する中で最も保存状態がよく、まるで昨日完成したかのようです。ストラドは時に手にした人の人生をも変えながら、人類の貴重な財産として受け継がれてきたのです。

音の秘密に挑む
いったいストラドの音はどこが特別なのでしょうか…今年3月、ニューヨークで一つの実験が行われました。

現代バイオリン VS. ストラディバリウス

現代の製作者が作ったバイオリンとストラドを聴き比べようというのです。審査員には、研究者、バイオリン製作者などの専門家です…結果は…

審査員の正解率は、2割~5割…実は、過去の実験でも専門家すら聞き分けるのは困難なのです。

しかし、実際にストラドを弾く演奏家には違いが明らかなのです。

現代最高の名手 イツァーク・パールマン
「ストラドの音は、本当に澄んでいるのです。ですからコンサートホールでは、全ての音が1列目から最後列まで届きます。音が大きいからではありません…澄んでいるからです」

諏訪内晶子
「ビロードの生地の上を水滴がコロコロと転がっている感じ、耳のそばで聞こえる音の粒が揃っている感じです」

3人の音楽家
諏訪内晶子 ドルフィン 1714年製
徳永二男 ストラディバリウス 1696年製
渡辺玲子 ヴィルヘルミ 1725年製
…に協力していただき、実験では、20世紀以降に作られたモダンバイオリンと3人が愛用しているストラドを弾き比べます。

バイオリンを取り囲む42個のマイクでどの方向に、どの音が出ているか録音します。

楽器演奏分析第一人者 愛知淑徳大学 牧勝弘
「モダンの楽器はまんべんなくいろんな方向に音が飛んでます。『噴水みたいに』…ストラディバリウスは、ある特定な方位に集中して音が飛んでいます。『絞ったホースみたい』」

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音を立体で見るとバイオリンから斜め上の方向に、赤い色の強い音の放射が見られます…これが今回見つかった指向性です。この指向性は3丁のストラド全てに共通していました。ストラドの音がホールの奥まで届くのはこの指向性にあったのです。

ようやくその一端が明らかになったストラドの音、しかしまだ多くの謎が残されています。

秘密は木材?
確かにストラドは特別な音がする。その秘密はストラドに使われた材料の木にあったのでは?…そんな説があります。

ストラディバリが木材を仕入れていたイタリア北部・パナヴェッジョの森、クレモラから北へ車で3時間、夏だというのに寒い、山には万年雪、標高1700メートル、そのため、年輪の幅がとてもせまくなるのです。

この森の木はマツ科のスプルース、バイオリンの表板を作るのに使われます。年輪が均等に詰まっています。音が伝わりやすい最高級の板です。

良質な木の遺伝子を守るため、植林は行わず自然に生えた物だけを育ててきました。

他のバイオリン職人もこの木を使っていました。ですから使っていた木材だけがストラドの音の秘密ではありません。

その答えとして昔から注目されていたのがストラド独特の深い赤色のニスでした。きっと何か特殊な成分が、19世紀から何人もの研究者がその生涯をかけてその謎に挑みました。

・絶滅した虫の羽根を入れていた
・ミツバチの巣からとれたプロポリスが入っている
・植物、鉱物などあらゆるものが試される
・若い女性の血の色だ

20世紀になると科学的な分析が出来るようになります…
・電子顕微鏡で赤い火山灰を発見
・殺虫剤の成分を見つけた
…しかし、何を混ぜてもストラドの音色にはなりません。

結局、21世紀に入ってニスを巡る伝説は否定される事になります…ヨーロッパの研究チームがパリにある5丁のストラドからニスを採取、数年をかけて見つかった成分は、
”一般的な『松やに』と『油』” 普通に使われていたニスだったのです。

至高のバイオリン・ストラディバリウス、
ストラドは素晴らしい音色を生み出すだけではありません。

昔もそしてこれからも、人々の夢と情熱をかきたててくれる魔法の箱であり続けます。

出典:NHKスペシャル ~魔性の楽器 300年の物語~